Effect of Carbide Precipitation on Mechanical Properties of Si-added Middle Carbon Martensitic Steels

Abstract

1. 緒 言 JISには用途によって各種ばね鋼が規定されているが, OT線としてコイルばねに使用される鋼材には,SUP7 (0.60C-2.00Si-0.85Mn:JIS中央値)やSUP12(0.55C-1.40Si0.75Mn -0.75Cr:JIS中央値)など,中炭素高Si鋼が多く使 用される.OT線用のばね鋼は,焼入れによりマルテンサ イト組織とした後に,適正な焼戻し処理を施すことによっ て,コイルばねに好適な機械特性を得ることができる.焼 戻し温度が低いほど強度は上昇するが,一方で,焼戻し温 度が不適切に低い場合には,冷間加工性や靭性,耐久性が 低下することが知られている1), 2). 一般に,焼戻し処理によるマルテンサイト組織の変化は Fig. 1のように 3段階に分けられており,70~150°Cの第 1段階ではε炭化物が析出し,230~300°Cの第 2段階では 残留オーステナイトが分解し,250~360°Cの第 3段階では セメンタイト(θ)が析出する3).焼戻し処理による機械特 性の変化は,これら炭化物の析出状態の変化と密接に関係 する. 「Si含有焼戻しマルテンサイト鋼」におけるSiの役割とし て,耐へたり性の改善4)や焼戻し軟化抵抗の向上4), 5),固溶 強化5)などが挙げられるが,これらの機械特性変化も,焼 戻し時の炭化物析出挙動と関係していると考えられている. 川嵜らは,SUP7やSUP12を用いて高周波加熱と電気炉 加熱による焼入れ焼戻し後の機械特性の変化を調査し,高 周波加熱の方が炭化物が微細に析出することにより,同等 強度でも強度-靭性バランスが改善することを報告してい る6), 7).また,高周波加熱と電気炉加熱のいずれにおいても, 硬さの低下は炭化物の成長粗大化と関係していることも示 している7). セメンタイト析出挙動に及ぼす鋼材成分の影響として, 鈴木ら8)は各種ばね鋼のベイナイト変態に及ぼすSiとCrの影 響を調査し,Si添加がセメンタイト析出を抑制することを 示している.Si添加によるセメンタイト析出抑制・軟化抑 制効果は焼戻しマルテンサイトでも同様であり,寺本ら9) はマルテンサイトの焼戻し硬さに及ぼすSi, Cr, Moの影響 を系統的に調査し,Si添加が200°C~400°Cの焼戻し硬さ向 Si 含有中炭素焼戻しマルテンサイト鋼の機械特性に及ぼす 焼戻し炭化物の影響 *