{"title":"A Study on \"Exercises for Releasing Body and Mind\" Lessons in Third and Fourth Grade of Elementary School Physical Education","authors":"Michiyo Saeki, M. Fujita","doi":"10.7219/JJSES.38.1_71","DOIUrl":null,"url":null,"abstract":"The purpose of this study was to verify the effects of team building through physical challenges in third and fourth grade of elementary school physical education. The participants were 5 classes of 126 schoolchildren in 2 elementary schools. The data for analysis were gathered by team building questionnaire focusing on school children’s interactive and cooperative behaviors in physical education class developed by Komatsuzaki and the others in 2001. The descriptions of children’s impressions in every class were analyzed by text mining with KH Coder. The “exercises for releasing body and mind” lessons of the unit consists of 5 times 45 minutes lessons with physical challenges. It was given from October to November in 2013 and in June of 2014. They got exercise of “the edge of a precipice (the rock)” and “giant ball carrying without using hands” in a group consisting of 6, 7, or 8 children in 4th and 5th class. The results were summarized as follows : 1) The total averages of team building in 5 classes were improved little by little. 2) There were significant differences under 5 % level (1st class < 5th class) in 3 classes. 3) There were increase tendency (1st class < 5th class) in 2 classes. 4) The number of words that were “voice”, “mind”, “cooperation”, “happy” and “can do” in descriptions of children’s impressions in 5th class increased to that in 3rd class. 5) Physical challenges produced good effects on team building. ス ポ ー ツ 教 育 学 研 究 <実践報告> 2018. Vol.38, No.1, pp. 71-82 スポーツ教育学研究 第 38巻 第 1号 平成 30年 5月 ─ 72 ─ I.緒言 平成 20年 3月に小学校学習指導要領の改訂が 行われ、平成 23年度から全面的に実施されてい る。体育科の改善の基本方針は、「基礎的な身体 能力を身に付け、実生活において運動を豊かに実 践していくための資質や能力の基礎を培う」(文 部科学省,2008,p.3)とされ、各学年の系統性 が図られ、指導する内容もより明確化・体系化さ れた。また、子どもの長期的な体力低下の傾向か ら、体力の向上を図る内容が低学年から示された。 具体的には、高学年のみの位置づけであった「体 つくり運動」が、低・中学年まで下り、低・中学 年の「体つくり運動」領域は、「体ほぐしの運動」 と「多様な動きをつくる運動(遊び)」の二つで 構成されることとなった。これは、子どもの体力 の低下傾向は深刻な課題であるが、低・中学年の 段階では体力を高めることを学習の直接の目的に することは難しく、この時期に様々な身体の基本 的な動きや各種の運動の基礎となる動きを培って おくことが重要であるからである。 村田は、「この改訂の背景には、年々深刻化す る子どもの体力低下とともに、近年の子どもの心 と体をめぐる多くの問題が今なお進行している状 況がある。特に、携帯やメールの急速な普及は、 身体的な遊びをますます減少させただけでなく、 生身の身体によるコミュニケーションの機会を奪 い、多くの歪みを生んでいる。それは『心は敏感 でピリピリ、でも身体は鈍感』という現代っ子の 心と体のアンバランスであり、身体感覚の欠如で ある。つまり問題なのは、低下した体力の数値で はなく、子ども自身が自らの体の有様に無頓着、 無自覚であるということではないだろうか。こう した『他者とうまくかかわれない子ども』『生き た体の実感に乏しい子ども』『どこかぎこちなく、 ぎくしゃくした動きの子ども』の心と体をどう解 きほぐし、本来あるべき『体の中のセンサー(身 体感覚)』を方針として、コミュニケーション能 力や論理的思考力を育み磨いていくか。子ども の心と体の自然と内なるパワーを取り戻す必要 性は、ますます増加しているのである。」(村田, 2009,p.24)と述べている。 こうした子どもの心と体の現実に対して、学校 体育に導入されたのが「体ほぐしの運動」であり、 小学校学習指導要領の体育目標に掲げられた「心 と体を一体としてとらえ」の趣旨を最も象徴的に 受けた内容でもある。 高橋は、「なぜ『体ほぐし』が導入されるのか、 それは、今日の児童生徒に生じている諸問題に深 く関係している。児童生徒の日常生活において、 運動遊びなどによる基本的な身体活動の体験が減 少し、精神的なストレスが増大している。活発に 運動する者とそうでない者との二極化が進み、体 力や運動能力が低下している。さらに、児童生徒 の生育環境の変化に関わって、顕在的・潜在的に 子どもたちの体や心に深刻な影響が現れている。 『体ほぐし』は、こうした諸問題に対処する一つの 方略であった。」(高橋,1998,p.77) と述べている。 小学校学習指導要領解説体育編には、「体ほぐ しの運動は、手軽な運動や律動的な運動を行い、 体を動かす楽しさや心地よさを味わうことによっ て、自分の体の状態に気付き、体の調子を整えた り、仲間と豊かに交流したりすることができる ことをねらいとした運動である。」(文部科学省, 2008,p.40)と規定されている。このように「体 ほぐしの運動」では「体の気付き」「体の調整」「仲 間との交流」の 3つのねらいが挙げられている が、児童が楽しく学校生活を送るためには、学級 の仲間との良い人間関係の構築が最も重要である ため、本研究では「仲間との交流」に焦点をあて ることとした。 小松崎ら(2001)は、小学校 6年生の男女 364 名を対象として、ボール運動 (4授業)、陸上運動 (4授業)、器械運動 (1授業)、体ほぐしの運動 (3 授業) の授業を通して「仲間との交流」の評価法 について研究し、「集団的達成」、「集団的思考」、 「集団的相互作用」、「集団的人間関係」、「集団的 活動への意欲」の 5因子 10項目からなる簡便な 形成的評価票を作成している。また、中村・岩田 (2001)は、「集団的達成」、「集団的思考」、「肯定 的関係」、「協力的態度」、「集団学習意欲」の 5つ の評価次元 15項目で作成された「仲間づくり」 (集団的関わり合い)の評価票を作成し、小学校 6年生男女 32名を対象に「体ほぐしの運動」の 授業における「チャレンジ運動」(爆弾運び,崖っ ぷち危機一髪)の効果を実証している。5時間単 元の授業実践の結果、学級の総合的な平均得点が スポーツ教育学研究 第 38巻 第 1号 平成 30年 5月 ─ 72 ─ I.緒言 平成 20年 3月に小学校学習指導要領の改訂が 行われ、平成 23年度から全面的に実施されてい る。体育科の改善の基本方針は、「基礎的な身体 能力を身に付け、実生活において運動を豊かに実 践していくための資質や能力の基礎を培う」(文 部科学省,2008,p.3)とされ、各学年の系統性 が図られ、指導する内容もより明確化・体系化さ れた。また、子どもの長期的な体力低下の傾向か ら、体力の向上を図る内容が低学年から示された。 具体的には、高学年のみの位置づけであった「体 つくり運動」が、低・中学年まで下り、低・中学 年の「体つくり運動」領域は、「体ほぐしの運動」 と「多様な動きをつくる運動(遊び)」の二つで 構成されることとなった。これは、子どもの体力 の低下傾向は深刻な課題であるが、低・中学年の 段階では体力を高めることを学習の直接の目的に することは難しく、この時期に様々な身体の基本 的な動きや各種の運動の基礎となる動きを培って おくことが重要であるからである。 村田は、「この改訂の背景には、年々深刻化す る子どもの体力低下とともに、近年の子どもの心 と体をめぐる多くの問題が今なお進行している状 況がある。特に、携帯やメールの急速な普及は、 身体的な遊びをますます減少させただけでなく、 生身の身体によるコミュニケーションの機会を奪 い、多くの歪みを生んでいる。それは『心は敏感 でピリピリ、でも身体は鈍感』という現代っ子の 心と体のアンバランスであり、身体感覚の欠如で ある。つまり問題なのは、低下した体力の数値で はなく、子ども自身が自らの体の有様に無頓着、 無自覚であるということではないだろうか。こう した『他者とうまくかかわれない子ども』『生き た体の実感に乏しい子ども』『どこかぎこちなく、 ぎくしゃくした動きの子ども』の心と体をどう解 きほぐし、本来あるべき『体の中のセンサー(身 体感覚)』を方針として、コミュニケーション能 力や論理的思考力を育み磨いていくか。子ども の心と体の自然と内なるパワーを取り戻す必要 性は、ますます増加しているのである。」(村田, 2009,p.24)と述べている。 こうした子どもの心と体の現実に対して、学校 体育に導入されたのが「体ほぐしの運動」であり、 小学校学習指導要領の体育目標に掲げられた「心 と体を一体としてとらえ」の趣旨を最も象徴的に 受けた内容でもある。 高橋は、「なぜ『体ほぐし』が導入されるのか、 それは、今日の児童生徒に生じている諸問題に深 く関係している。児童生徒の日常生活において、 運動遊びなどによる基本的な身体活動の体験が減 少し、精神的なストレスが増大している。活発に 運動する者とそうでない者との二極化が進み、体 力や運動能力が低下している。さらに、児童生徒 の生育環境の変化に関わって、顕在的・潜在的に 子どもたちの体や心に深刻な影響が現れている。 『体ほぐし』は、こうした諸問題に対処する一つの 方略であった。」(高橋,1998,p.77) と述べている。 小学校学習指導要領解説体育編には、「体ほぐ しの運動は、手軽な運動や律動的な運動を行い、 体を動かす楽しさや心地よさを味わうことによっ て、自分の体の状態に気付き、体の調子を整えた り、仲間と豊かに交流したりすることができる ことをねらいとした運動である。」(文部科学省, 2008,p.40)と規定されている。このように「体 ほぐしの運動」では「体の気付き」「体の調整」「仲 間との交流」の 3つのねらいが挙げられている が、児童が楽しく学校生活を送るためには、学級 の仲間との良い人間関係の構築が最も重要である ため、本研究では「仲間との交流」に焦点をあて ることとした。 小松崎ら(2001)は、小学校 6年生の男女 364 名を対象として、ボール運動 (4授業)、陸上運動 (4授業)、器械運動 (1授業)、体ほぐしの運動 (3 授業) の授業を通して「仲間との交流」の評価法 について研究し、「集団的達成」、「集団的思考」、 「集団的相互作用」、「集団的人間関係」、「集団的 活動への意欲」の 5因子 10項目からなる簡便な 形成的評価票を作成している。また、中村・岩田 (2001)は、「集団的達成」、「集団的思考」、「肯定 的関係」、「協力的態度」、「集団学習意欲」の 5つ の評価次元 15項目で作成された「仲間づくり」 (集団的関わり合い)の評価票を作成し、小学校 6年生男女 32名を対象に「体ほぐしの運動」の 授業における「チャレンジ運動」(爆弾運び,崖っ ぷち危機一髪)の効果を実証している。5時間単 元の授業実践の結果、学級の総合的な平均得点が ─ 73 ─ 佐伯:小学校中学年体育における「体ほぐしの運動」の授業研究 漸進的に向上し、特に、第 3時以降の「チャレン ジ運動」において、「肯定的関係」と「集団的達 成」の次元得点が揃って大きく向上したことを明 示し、これらがとりわけ密接不可分に結びついて いる可能性があると述べている。しかし、1学級 32名の少ない実践のため、一般化という点で限 界がある。 本研究は、小学校学習指導要領の改訂によって、 「体ほぐしの運動」を低・中学年でも取扱うこと になった現況を受け、前述した先行研究の結果に 準拠しながら、小学校中学年を対象にして、仲間 づくりにおける「チャレンジ運動」の効果につい て再検討するものである。","PeriodicalId":119114,"journal":{"name":"Japanese Journal of Sport Education Studies","volume":"39 11","pages":"0"},"PeriodicalIF":0.0000,"publicationDate":"2018-05-31","publicationTypes":"Journal Article","fieldsOfStudy":null,"isOpenAccess":false,"openAccessPdf":"","citationCount":"0","resultStr":null,"platform":"Semanticscholar","paperid":null,"PeriodicalName":"Japanese Journal of Sport Education 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Abstract
The purpose of this study was to verify the effects of team building through physical challenges in third and fourth grade of elementary school physical education. The participants were 5 classes of 126 schoolchildren in 2 elementary schools. The data for analysis were gathered by team building questionnaire focusing on school children’s interactive and cooperative behaviors in physical education class developed by Komatsuzaki and the others in 2001. The descriptions of children’s impressions in every class were analyzed by text mining with KH Coder. The “exercises for releasing body and mind” lessons of the unit consists of 5 times 45 minutes lessons with physical challenges. It was given from October to November in 2013 and in June of 2014. They got exercise of “the edge of a precipice (the rock)” and “giant ball carrying without using hands” in a group consisting of 6, 7, or 8 children in 4th and 5th class. The results were summarized as follows : 1) The total averages of team building in 5 classes were improved little by little. 2) There were significant differences under 5 % level (1st class < 5th class) in 3 classes. 3) There were increase tendency (1st class < 5th class) in 2 classes. 4) The number of words that were “voice”, “mind”, “cooperation”, “happy” and “can do” in descriptions of children’s impressions in 5th class increased to that in 3rd class. 5) Physical challenges produced good effects on team building. ス ポ ー ツ 教 育 学 研 究 <実践報告> 2018. Vol.38, No.1, pp. 71-82 スポーツ教育学研究 第 38巻 第 1号 平成 30年 5月 ─ 72 ─ I.緒言 平成 20年 3月に小学校学習指導要領の改訂が 行われ、平成 23年度から全面的に実施されてい る。体育科の改善の基本方針は、「基礎的な身体 能力を身に付け、実生活において運動を豊かに実 践していくための資質や能力の基礎を培う」(文 部科学省,2008,p.3)とされ、各学年の系統性 が図られ、指導する内容もより明確化・体系化さ れた。また、子どもの長期的な体力低下の傾向か ら、体力の向上を図る内容が低学年から示された。 具体的には、高学年のみの位置づけであった「体 つくり運動」が、低・中学年まで下り、低・中学 年の「体つくり運動」領域は、「体ほぐしの運動」 と「多様な動きをつくる運動(遊び)」の二つで 構成されることとなった。これは、子どもの体力 の低下傾向は深刻な課題であるが、低・中学年の 段階では体力を高めることを学習の直接の目的に することは難しく、この時期に様々な身体の基本 的な動きや各種の運動の基礎となる動きを培って おくことが重要であるからである。 村田は、「この改訂の背景には、年々深刻化す る子どもの体力低下とともに、近年の子どもの心 と体をめぐる多くの問題が今なお進行している状 況がある。特に、携帯やメールの急速な普及は、 身体的な遊びをますます減少させただけでなく、 生身の身体によるコミュニケーションの機会を奪 い、多くの歪みを生んでいる。それは『心は敏感 でピリピリ、でも身体は鈍感』という現代っ子の 心と体のアンバランスであり、身体感覚の欠如で ある。つまり問題なのは、低下した体力の数値で はなく、子ども自身が自らの体の有様に無頓着、 無自覚であるということではないだろうか。こう した『他者とうまくかかわれない子ども』『生き た体の実感に乏しい子ども』『どこかぎこちなく、 ぎくしゃくした動きの子ども』の心と体をどう解 きほぐし、本来あるべき『体の中のセンサー(身 体感覚)』を方針として、コミュニケーション能 力や論理的思考力を育み磨いていくか。子ども の心と体の自然と内なるパワーを取り戻す必要 性は、ますます増加しているのである。」(村田, 2009,p.24)と述べている。 こうした子どもの心と体の現実に対して、学校 体育に導入されたのが「体ほぐしの運動」であり、 小学校学習指導要領の体育目標に掲げられた「心 と体を一体としてとらえ」の趣旨を最も象徴的に 受けた内容でもある。 高橋は、「なぜ『体ほぐし』が導入されるのか、 それは、今日の児童生徒に生じている諸問題に深 く関係している。児童生徒の日常生活において、 運動遊びなどによる基本的な身体活動の体験が減 少し、精神的なストレスが増大している。活発に 運動する者とそうでない者との二極化が進み、体 力や運動能力が低下している。さらに、児童生徒 の生育環境の変化に関わって、顕在的・潜在的に 子どもたちの体や心に深刻な影響が現れている。 『体ほぐし』は、こうした諸問題に対処する一つの 方略であった。」(高橋,1998,p.77) と述べている。 小学校学習指導要領解説体育編には、「体ほぐ しの運動は、手軽な運動や律動的な運動を行い、 体を動かす楽しさや心地よさを味わうことによっ て、自分の体の状態に気付き、体の調子を整えた り、仲間と豊かに交流したりすることができる ことをねらいとした運動である。」(文部科学省, 2008,p.40)と規定されている。このように「体 ほぐしの運動」では「体の気付き」「体の調整」「仲 間との交流」の 3つのねらいが挙げられている が、児童が楽しく学校生活を送るためには、学級 の仲間との良い人間関係の構築が最も重要である ため、本研究では「仲間との交流」に焦点をあて ることとした。 小松崎ら(2001)は、小学校 6年生の男女 364 名を対象として、ボール運動 (4授業)、陸上運動 (4授業)、器械運動 (1授業)、体ほぐしの運動 (3 授業) の授業を通して「仲間との交流」の評価法 について研究し、「集団的達成」、「集団的思考」、 「集団的相互作用」、「集団的人間関係」、「集団的 活動への意欲」の 5因子 10項目からなる簡便な 形成的評価票を作成している。また、中村・岩田 (2001)は、「集団的達成」、「集団的思考」、「肯定 的関係」、「協力的態度」、「集団学習意欲」の 5つ の評価次元 15項目で作成された「仲間づくり」 (集団的関わり合い)の評価票を作成し、小学校 6年生男女 32名を対象に「体ほぐしの運動」の 授業における「チャレンジ運動」(爆弾運び,崖っ ぷち危機一髪)の効果を実証している。5時間単 元の授業実践の結果、学級の総合的な平均得点が スポーツ教育学研究 第 38巻 第 1号 平成 30年 5月 ─ 72 ─ I.緒言 平成 20年 3月に小学校学習指導要領の改訂が 行われ、平成 23年度から全面的に実施されてい る。体育科の改善の基本方針は、「基礎的な身体 能力を身に付け、実生活において運動を豊かに実 践していくための資質や能力の基礎を培う」(文 部科学省,2008,p.3)とされ、各学年の系統性 が図られ、指導する内容もより明確化・体系化さ れた。また、子どもの長期的な体力低下の傾向か ら、体力の向上を図る内容が低学年から示された。 具体的には、高学年のみの位置づけであった「体 つくり運動」が、低・中学年まで下り、低・中学 年の「体つくり運動」領域は、「体ほぐしの運動」 と「多様な動きをつくる運動(遊び)」の二つで 構成されることとなった。これは、子どもの体力 の低下傾向は深刻な課題であるが、低・中学年の 段階では体力を高めることを学習の直接の目的に することは難しく、この時期に様々な身体の基本 的な動きや各種の運動の基礎となる動きを培って おくことが重要であるからである。 村田は、「この改訂の背景には、年々深刻化す る子どもの体力低下とともに、近年の子どもの心 と体をめぐる多くの問題が今なお進行している状 況がある。特に、携帯やメールの急速な普及は、 身体的な遊びをますます減少させただけでなく、 生身の身体によるコミュニケーションの機会を奪 い、多くの歪みを生んでいる。それは『心は敏感 でピリピリ、でも身体は鈍感』という現代っ子の 心と体のアンバランスであり、身体感覚の欠如で ある。つまり問題なのは、低下した体力の数値で はなく、子ども自身が自らの体の有様に無頓着、 無自覚であるということではないだろうか。こう した『他者とうまくかかわれない子ども』『生き た体の実感に乏しい子ども』『どこかぎこちなく、 ぎくしゃくした動きの子ども』の心と体をどう解 きほぐし、本来あるべき『体の中のセンサー(身 体感覚)』を方針として、コミュニケーション能 力や論理的思考力を育み磨いていくか。子ども の心と体の自然と内なるパワーを取り戻す必要 性は、ますます増加しているのである。」(村田, 2009,p.24)と述べている。 こうした子どもの心と体の現実に対して、学校 体育に導入されたのが「体ほぐしの運動」であり、 小学校学習指導要領の体育目標に掲げられた「心 と体を一体としてとらえ」の趣旨を最も象徴的に 受けた内容でもある。 高橋は、「なぜ『体ほぐし』が導入されるのか、 それは、今日の児童生徒に生じている諸問題に深 く関係している。児童生徒の日常生活において、 運動遊びなどによる基本的な身体活動の体験が減 少し、精神的なストレスが増大している。活発に 運動する者とそうでない者との二極化が進み、体 力や運動能力が低下している。さらに、児童生徒 の生育環境の変化に関わって、顕在的・潜在的に 子どもたちの体や心に深刻な影響が現れている。 『体ほぐし』は、こうした諸問題に対処する一つの 方略であった。」(高橋,1998,p.77) と述べている。 小学校学習指導要領解説体育編には、「体ほぐ しの運動は、手軽な運動や律動的な運動を行い、 体を動かす楽しさや心地よさを味わうことによっ て、自分の体の状態に気付き、体の調子を整えた り、仲間と豊かに交流したりすることができる ことをねらいとした運動である。」(文部科学省, 2008,p.40)と規定されている。このように「体 ほぐしの運動」では「体の気付き」「体の調整」「仲 間との交流」の 3つのねらいが挙げられている が、児童が楽しく学校生活を送るためには、学級 の仲間との良い人間関係の構築が最も重要である ため、本研究では「仲間との交流」に焦点をあて ることとした。 小松崎ら(2001)は、小学校 6年生の男女 364 名を対象として、ボール運動 (4授業)、陸上運動 (4授業)、器械運動 (1授業)、体ほぐしの運動 (3 授業) の授業を通して「仲間との交流」の評価法 について研究し、「集団的達成」、「集団的思考」、 「集団的相互作用」、「集団的人間関係」、「集団的 活動への意欲」の 5因子 10項目からなる簡便な 形成的評価票を作成している。また、中村・岩田 (2001)は、「集団的達成」、「集団的思考」、「肯定 的関係」、「協力的態度」、「集団学習意欲」の 5つ の評価次元 15項目で作成された「仲間づくり」 (集団的関わり合い)の評価票を作成し、小学校 6年生男女 32名を対象に「体ほぐしの運動」の 授業における「チャレンジ運動」(爆弾運び,崖っ ぷち危機一髪)の効果を実証している。5時間単 元の授業実践の結果、学級の総合的な平均得点が ─ 73 ─ 佐伯:小学校中学年体育における「体ほぐしの運動」の授業研究 漸進的に向上し、特に、第 3時以降の「チャレン ジ運動」において、「肯定的関係」と「集団的達 成」の次元得点が揃って大きく向上したことを明 示し、これらがとりわけ密接不可分に結びついて いる可能性があると述べている。しかし、1学級 32名の少ない実践のため、一般化という点で限 界がある。 本研究は、小学校学習指導要領の改訂によって、 「体ほぐしの運動」を低・中学年でも取扱うこと になった現況を受け、前述した先行研究の結果に 準拠しながら、小学校中学年を対象にして、仲間 づくりにおける「チャレンジ運動」の効果につい て再検討するものである。